恋色シンフォニー
「どうも……」
「お久しぶり、橘さん」
嫌味にしか聞こえませんが。
私を隣に呼んだくらいだ。
かつてのような、私に対する壁は消え去っているらしい。
「飲んでないの?」
ウーロン茶の三神くんをにらむ。
「僕、飲めないから」
「ほんと? 会社の人と飲まないだけじゃないの?」
三神くん、苦笑。図星か?
「橘さんは結構飲んでるみたいだね」
「楽しみにしてた飲み会だもん」
「まあ、どうぞ」
三神くんがメニューを差し出してくれる。
「どうも。……すみません、カシスオレンジひとつください!」
店員さんに注文し、グラスに残っていたグレープフルーツサワーを飲み干す。
三神くんは、いつもの、地味系男子の雰囲気だ。
今なら負けない。
よし。
三神くんを左隣から見上げる。
左耳の下、首と顔の境目に、黒ずんだアザを発見。
三神くんのそんなとこ、まじまじ見ないから、気づかなかった。
……ぬかった。
ヴァイオリンを顎ではさみ続けるとできるアザじゃないか。
「あれ、趣味のレベルじゃないでしょ。そのアザ見ればわかる」
すると、三神くんはちょっと照れくさそうに笑った。
「ありがと」
キュ、と、胸が鳴る。
イヤイヤイヤ。
気のせい気のせい。
くそぅ、落ち着け、自分。
よし、顔は見ないぞ。
ちょうど運ばれてきたカシスオレンジのグラスをあおる。