恋色シンフォニー
よし。
おかみさんは、ひとり弾きを嫌がっていたから、弦楽器だ。
ひとり弾きとは、オーケストラの練習のときに、ひとりで弾かされること。
管楽器と違い、ソロに慣れていない弦楽器奏者としては、非常に恐ろしい仕打ちだ。(管楽器奏者でもひとりで吹かされるのは嫌なものだろうけど)
旦那さんは……もの静かっぽかったから……。
「決まった?」
「おかみさんは、ヴィオラ。旦那さんはホルン。どう?」
「おかみさんは合ってる。旦那さんはファゴット。残念でした」
くっそぅー。
煮魚定食と、生姜焼き定食が運ばれてきた。
メインの他に、小鉢が2つと、ごはん・お味噌汁。
「わーおいしそう! いただきます」
……うん!
家庭的な味だ。
しみじみおいしい。
「おいしいね」
「でしょ」
「生姜焼きもおいしそうだね」
「……はい」
一枚、くれた。
いや別に欲しいとは言ってませんが。
ええと。魚の場合、どうすれば?
「少しちょうだい」
「お箸、つけちゃったけど」
「構わないよ」
私、あなたとそれほど親しい仲ではありませんが。
ペーパーナプキンでお箸をぬぐい、箸をつけたのと反対側から切り分け、お皿に乗せてあげた。
「ありがと」
何、恋人でもないのに、この交換。
気恥ずかしい……。