さくら、ひらひら。
「……可愛いー!」

そう叫んで、桜をぎゅっと抱きしめたのは、僕ではなく香澄先輩。
髪がふわりと揺れる。
真顔で、海ちゃんなんてやめて私にしない?なんて聞くもんだから、桜は困惑したように目を泳がせては、えぇ?!と本気で驚いている。

べりっ、と桜から香澄先輩を剥がして、ブスッと小さくにらむと、香澄先輩は、えへっと笑う。
その間で桜は僕と先輩をキョロキョロと見ている。


桜が、僕の服の裾をちょんと引っ張ったことに、気づいた。

「やめてくださいよ、先輩が言うとシャレに聞こえません。桜が困ってる」

僕がそう言うと、香澄先輩はその唇を尖らせて、チェッと言った。
その姿は、とても女性らしく魅力的で、胸がきゅっとうずいた気がした。
それは、過去の傷。

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