さくら、ひらひら。
笑いあったままの、友達同士。
こちらに指を指したまま好奇のまなざしだけは残したままの、カップル。
川の水しぶきさえも止まったままだ。

『時間をね、ちょっとだけ止めさせてもらったんですよ』

燕尾の男が事もなげにさらりと言う。

「なんで…?」

対する私の声の、なんて弱弱しいこと。

『だって、あなたが望んだんじゃないですか。動きたくない、と。動かない世界というのを見せてあげるというのも、一興かと思いまして』

この男、言っていることがめちゃくちゃだ。
ただただ、絶句した。

「わ、私は、自分が動きたくないだけでっ…!幸せが壊れるのが嫌で、だから」

で、だから?
だからなんだというの?

『“本当に動かない”ことを望んでいるわけじゃない、と?』

私の心の声を代弁するかのような声が、響く。


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