さくら、ひらひら。
海斗がどこか照れているような顔をしているのは、私の気のせいだろうか?
「ほぉら、早く行っといでよ!海ちゃんの“春が好きな理由”でしょ?」
くすくす、と笑いをもらして海斗の肩をトン、と押す。
それにつられて海斗がこちらに向かってくる。
絵画の中からこちらへと抜け出た海斗に、そっと手を伸ばす。
あなたを失うこと、諦めること、自分の気持ちに決着をつけずにいること。
そうしないために、私はここにいる。
指先が震えていることには、気づかないふり。
「春が好きな理由、て?」
近づいた海斗に、問いかける。
ぽりぽりと額を掻いて視線をそらす海斗が、ぼそりと呟いた。
「……桜、でしょ」
照れている横顔に、飛びついた。
その頬に、そっと口付ける。
ビックリしてこちらを向いた海斗に、私は言う。
あなたことが大好きです、と。
*春の夢。『春を愛する人』/完