さくら、ひらひら。
「学生時代にね、桜の木の前で告白してフられたことがある。そのとき余りにも桜が綺麗に咲いていたものだから、まるで桜にまで馬鹿にされたような気分になって」

あれは、僕の初恋。
あれからいくつも恋をして、実ることもあれば破れることもあった。
思えばあの時だけかもしれない。
臆せず、真正面から気持ちをぶつけられたのは。

いつだって桜を見る度に思い出すのは、淡くて苦い、あの恋。
告白するときに、緊張のあまり下を向いて見つけたタンポポに、どれだけ勇気をもらっただろう?

「……僕は、地べたで一生懸命に咲いているタンポポの方がずっと好きだ」

一生懸命に花を咲かせようと、桜の前では霞んでしまう、タンポポの方が。


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