恋の指導は業務のあとに
お部屋事情
晴天の霹靂とは、こういうことを言うのだろうか。
呆然としつつも面前に広がる光景を見て、そう考える自分がいる。
人間というものはあまりにショックな事に出くわすと、却って落ち着くものなのかもしれない。
いや、頭の中が一瞬空白になって動けないでいるというのが正解かも。
私は今、マンションの部屋の玄関に立っている。
ここは勿論自分の部屋で、置いてあるもの全部自分のもの。
でも出掛けた時とは全く違う状態なのだ。
信じられない、これは何かの罰なのか。
今日の私の行動の何かがいけなかったのだろうか。
うまく働かない頭をぺしんと叩いて気合を入れ、一日を思い返してみる。
「えーっと、確か」
朝は普通に起きて身支度を整えて、明日からの社会人生活に足りないものをメモして買い出しに出かけたのは昼過ぎのこと。
そして今は夕暮れ。
買い出し品と夕食の入った袋を提げて、明日の入社式に思いを馳せ、ちょっとの不安とたくさんの希望に胸を膨らませていた。
そう、ウキウキワクワクしていたのだ、さっきまでは。
それが180度くるりと回転して、奈落の底まで真っ逆さまに突き落とされた。
玄関ドアを開けて入った途端に、水の匂いと音に違和感を感じた。
靴を脱いで入ろうとして床が濡れていることに気付いて、頭の中は疑問符だらけになった。
「何で・・・?まさか私、お風呂の水を止め忘れたの?」
呟いた言葉は、ピチョンピチョンと天井から滴り落ちる水音に溶け込んだ。
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