恋の指導は業務のあとに
「・・・羽生さんは、野獣です」
膝の上で唇を尖らせて瞳を潤ませ、上目遣いに睨んでくる。
その顔がまたそそるのだが、時間も遅いゆえにこれ以上はできず、抱き寄せてそっとベッドに横たえた。
「それは、最大の褒め言葉だな。男はみんな獣だぞ。それよりも、だ。今日清水と何を話していた?」
頬にかかる髪を耳にかけてやりながら、今日で三度目の同じ質問をする。
なるべく優しく問いかけたつもりだが、若葉はビクッと体を震わせて硬直した。
何を、隠している?
「な、何でもないです。普通の世間話ですから、気にしないでください~」
「俺が話せと言ってるんだが?」
「そ、それでも内緒です~!もう寝ますっ。おやすみなさい!!」
俺の視線から逃げるように布団の中にもぐりこみ、だんまりを決め込んだ。
これ以上聞いたら喧嘩になりそうだと諦め、ターゲットを変えることにする。
そう、清水だ。
ふたりでコソコソ話しながら、俺をチラチラと見ていた。
俺は、普段から女子社員たちにそういう態度を取られることが多いが、大抵は無視ができる。
興味のない女からどう思われようと関係ないのだが、相手は若葉で、しかも彼女に惚れてる清水と密談だ。
非常に、気になる。
「清水、ちょっと来い」
始業20分程前に出勤してきた清水を捕まえ、喫煙所を兼ねた自販機コーナーに誘う。
缶コーヒーを買ってやり、手渡しがてら睨みを利かせると、清水は真面目な顔つきになった。