恋の指導は業務のあとに
違う、上から漏れているのだ!
ようやく状態を把握し、靴箱からサンダルを出して急いで部屋に向かう。
玄関直結のキッチンが水浸しだったのだ、部屋の方はどうなのか。
部屋とキッチンを隔てる戸も濡れていて、最悪な状態を覚悟した。
けれども少しだけ、こっちは無事かもしれないと期待しつつ開けた直後、小さな悲鳴が出た。
壁を伝い落ちる水滴を見れば触って確かめるまでもない。
キッチンに近い壁ほど、まるでバスルームの壁みたいにびっしょりなのだから。
「うそぉ、こんなのないよ・・・」
無情にも付き付けられた現実に情けない声が出る。
ほんの1週間前に引っ越して来たばかりの、1DKの狭いながらも綺麗な私の部屋は、サンダルなしでは歩けない状態になっていた。
真ん中辺りから向こう、窓の方はまだ無事だけれど、キッチン側の床は水たまりができている。
ベッド、チェスト、テーブル、センターラグ、ぜーんぶ新品なのに。
カーテンも何もかも、白と緑のアースカラーで可愛く素敵にコーディネートしたのに。
天井から下がる電気コードからは水がぽたぽたと滴り落ちてて、白いテーブルの上にできた小さな水たまりを見ると涙が出てきた。
「まさか、全部駄目になってるの?明日から出社なのに!」
そうだ、しっかりしろ、私!
これは泣いてる場合ではない。
出社用のバッグにスーツがダメになっていたら最悪ではないか。
入社初日から休むわけにはいかない。
「全部買い直す?冗談じゃないわ」