恋の指導は業務のあとに
ハジメテ

朝起きると羽生さんはやっぱり居なくて、キッチンカウンターの上には『了解した』と一言だけ書かれたメモが置いてあった。

一瞬ハテナマークが頭の中に浮かんだけれど、修理のことだと気が付いた。

もしかして昨日呟いた“参ったな”って、このことだったのだろうか。


「おはようございます」


私の席は、営業課のデスクの島では一番入口に近い。

隣には清水さんがいて、羽生さんは窓に近いほうの少し大きなデスクに座っている。いわゆるお誕生日席だ。

その羽生さんの背後には営業課課長の大きくて立派な木のデスクがドーンと置かれている。

課長は商品部部長と一緒に海外出張中らしく、まだ一度も顔を合わせていない。


羽生さんに指示されるまで何もすることが無く、支給されたばかりのノートパソコンを開いてメールチェックをしてみる。

私にもメールアドレスがあるのだ!と会社の一員になった実感がして、単純にも嬉しくなる。

まだ何もないと思われた受信ボックスには1件の着信があって、開くと総務課からの社内報だった。

『今年の新入社員紹介!』とあって、写真と一緒に自己紹介文と所属先が載せられている。

琴美を探して読んでいると「カキネ、ちょっと来い」と羽生さんに呼ばれた。


「垣根じゃありません。池垣、です」


抗議するけれど、羽生さんは軽~く無視する。

会社では“垣根”家では“あんた”。

これでは、私の名前を覚えていないのでは?と思ってしまう。

印象深いと言っていたのにウソつきって思うけれど、それ以上何も言えない。

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