恋の指導は業務のあとに


「・・・既製品を売るだけじゃないんですか?」

「まだ教えてもらってないんですね。見積もりとか難しいから、池垣さんが始めるのは夏過ぎくらいかなあ。主任はゆっくり育てるつもりかな」


そういえば、パンフレットにはノベルティ制作とも書いてあったっけ。

あれは、営業がお仕事を取ってくるのだ。

私にできるのかな・・・。


「それに今課長が海外にいて日本にいないじゃないっすか。留守の間、課長の仕事は主任がやっているんです。日常業務もあるのに、絶対、あの人にしかこなせないっすよー」

「そう、なんですか。課長のお仕事まで・・・」


そうか、そうだったんだ。

私の指導に加えて普段の仕事もあるのに、羽生さんは今すごく大変なのだ。

だから毎日朝早く出掛けて、帰りが夜遅いのだ。

熱が出たのも、疲れがたまっていたからなのかも。


でもそんなに忙しいなんて、彼女は会えなくて寂しいんじゃないかな。

それとも、フリーなのかな。

“互いに干渉しない”

あのルールのせいで、訊きたくても訊けないことだ。

なんだか胸がざわざわ煩くて、またまたビールをグググッと飲む。

どうしてこんなに気になるのだろうか。


ジョッキをトンとテーブルの上に置くと、いつの間にか空になっていた。

ビールをこんなに飲んだのは初めてで、自分でも驚いてしまう。

私って、本当はお酒が飲める人なのかもしれない。


「お、池垣さん飲めるんすねー。おかわりしますか。すいませーん、生ひとつ!」

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