恋の指導は業務のあとに
もうお酒は飲んじゃダメだと決め、バスルームから出て髪と体を拭いていると、戸がスラッと開いた。
突然のことで叫び声も出ない。
「あ、あ、あ」
「ああ、起きたのか」
驚きで固まっている腕を叱咤して、なんとかバスタオルで体を覆う。
み、見たよね?今、絶対、見た。
でも羽生さんは平然としていて、出ていくどころか近付いてきた。
脱衣籠の前にいる私は、壁にじりじりと追い込まれていく。
一体何を考えているのだろう。
「な、な、なん」
「昨日のこと、覚えてるか?」
トンと壁につかれた腕と脱衣籠に退路を阻まれて、逃げ場を失う。
こんなことをしてくる羽生さんは怒っているんだと思うけれど、真剣な表情にも見える。
バスタオルが落ちないようにぎゅっと掴んで頭を下げた。
「よ、酔った私を、運んでくれたんですよね。あ、ありがとうございます。ご迷惑、おかけしました」
「・・・そこだけか。それ以外は」
羽生さんは眉間にしわを寄せていて、私を見下ろしてる目はなんだか切なそうに見える。
どうしてそんな顔をするのだろう。
「・・・あとは、その、覚えてないです」
羽生さんは、「そうか」と呟いて壁についていた腕を下ろして出ていった。
その背中がなんだか寂しそうに見えて・・・。
私は何かしたり、言ったりしたのだろうか。
いくら思い出そうとしても、頭の中はもやっとしてはっきりしない。
考え込んでいると、体がブルッと震えてくしゃみが出た。
早く体を拭いて髪を乾かさないと風邪をひいてしまう。
羽生さんの態度の謎と、裸を見られたことを頭から追い出すようにガシガシ髪を拭いた。