恋の指導は業務のあとに
ガシガシ力一杯拭いたら、また気分が悪くなった。
「ううう、二日酔いって、ツライ」
ふと、脱衣場の戸を開けるのを躊躇する。
すぐそこに羽生さんがいたら、どんな顔をすればいいのだろうか。
とりあえず少しだけ開けてLDKを覗くと、見える範囲には人影がない。
ホッとしつつ急いで部屋に戻ろうとすると、腕をガシッと掴まえられた。
「ひゃっ」
心底驚きながら振り返ると、腕捲りをした羽生さんが私を見下ろしていた。
口を一文字に結んで怖い顔をしている。
今度は何?
じりじりと後ずさりをする私の手に、羽生さんはフサフサの布が付いた棒を握らせた。
これは、ハタキ?
「忘れたか。今日は掃除の日だぞ。先ずは、それでLD全体のホコリを払え」
「掃除の日、ですか?」
「第二土曜は共同スペースの掃除。最初に決めただろう」
そういえば、そうだった。でも今日は、できれば勘弁してほしい。
「あの、でも二日酔いで気分が悪くて。掃除は明日にしませんか」
「駄目だ。ルールはルール。気分が悪いのは自業自得だ。動け」
「はいっ」
自業自得と言われて反論できない。
頭痛でどんよりとする体をなんとか動かしてハタキでパタパタする。
昨日調子にのって飲むんじゃなかったとつくづく思う。
記憶はないし、体調悪いし、最悪だ。
「ったく、しょうがねえな。おい、口を開けろ」
「は?あんむぐぅっ」