恋の指導は業務のあとに
口を開けた瞬間に金属的な固いものがするんと入れられた。
これは何?と焦るけれど、それがスプーンだとすぐに分かった。
トロリと甘くて癖のある風味が口いっぱいに広がる。
モグモグしながら羽生さんをよく見れば、手の中には小瓶があって、花模様がナチュラルなラベルが見える。
これは、ハチミツだ。どうして、これを?
「しっかり舐めろ。二日酔いの頭痛にはこれが一番いい。しゃきしゃき動け」
ハチミツを舐めてからは言葉通り頭痛が楽になっていき、普通に動けるようになった。
ハチミツって、スゴイ。
「おい、手伝え。ソファ動かすぞ」
「はいっ」
「窓も拭け」
「わかりましたっ」
すっかり体調の良くなった私は羽生さんに使われ、二人して大掃除並みに掃除したおかげで、LDKは隅々までピカピカになった。
疲れた・・・。
週明けの朝。
いつも通りに出勤した私は、隣のデスクにいる清水さんに声を掛けた。
まず、金曜の失態を謝らなければいけない。
「歓迎会では酔ってしまってすみませんでした」
「いいっすよ、よくあることっす。俺も気付かずに飲ませてすいませんでした」
「あの・・・私、何か変なことしませんでした?例えば暴言吐いたりとか」
「そんなことしてないっすよ。静かに酔っぱらってましたから」
清水さんはキョトンとした顔をして否定する。
嘘じゃないみたいだ。
じゃあ、羽生さんはなんであのとき怒っていたのだろう?
デスクに頬杖をついて「うーん」と唸っていると、清水さんが「それよりも・・・」と言うので向き直る。
やっぱり、私何かしたのだろうか。
清水さんは真剣な表情でグッと近づいてきて、内緒の声で言った。
「主任に何かされませんでしたか?」