恋の指導は業務のあとに
「へ?あの、何かって、どういう??」
「言葉通りですよ。あの時、俺が池垣さんを送っていこうとしたんです。そしたら、ギロっと睨まれたんですよ。大事そうに抱えていくから、あのまま持ち帰りされたのかなーと」
「と、とんでもないです!」
思わず大きな声が出てしまい、慌てて口を押さえる。
羽生さんを見るとパソコン画面を真剣に見ていて、こちらには気付いていないようだ。
「何もないです!」
小声ながらも強く言うと、清水さんは、ふーん、そうっすか?と言って、探るように私を見る。
信じてないのだろうか。
確かに同じ家の中だけど、俗に言う“お持ち帰り”とは次元がまるで違うのだ。
「ほんとです」
「・・・それなら、良かった」
清水さんはホッとしたような声を出して、爽快な笑顔を私に向ける。
「そうですよ。何もないです」
羽生さんと私がどうにかなるなんて、そんなこと天地がひっくり返っても有り得ないと思う。
だって、裸を見ても無反応だったのだから。
「俺、ずっと気になっていたんですよ。相手が主任じゃあ・・・」
そう言って頭を掻く清水さんの顔を見た瞬間、頭の上にポンと柔らかな何かがのった。
清水さんの表情が強張っているのを見て、こくりと息を飲む。
ぎこちなく見上げると羽生さんが私の頭に手をのせていた。
マイナス10度の気が私と清水さんを襲う。
スーツ姿の彼は、本当に迫力があるのだ。
営業課の男子社員をまとめるには、このくらい気迫がないとやっていけないのかもしれない。
「清水、無駄話するな。カキネ、行くぞ。準備は出来ているのか」
「は、はい。今日も宜しくお願いします」
すぐに営業用のバッグを持ち、すたすた歩いていく羽生さんの後を追いかけた。