恋の指導は業務のあとに

「ああ、これは酷いですねぇ・・・。業者を呼んで修理しないといけないレベルだ」


眼鏡をかけたスーツ男子が私の部屋をチェックして、被害部分の写真を撮っている。

この人は、このマンションの管理をしている不動産会社の社員で、門田と名乗った。

この状態を作った原因の男が、部屋のあり様を見てすぐに呼んでくれたのだ。

ものの十五分くらいで来てくれた門田さんは、こういうトラブル専門の部署なのだそうで確認作業が手慣れている。


「このキッチンと部屋の境の丁度上が風呂と洗面室ですね。だからこの辺りが一番酷いんです」


私の部屋は、玄関入ってすぐ左側に四畳くらいの縦に長いDKがあり、バスルームとトイレはその隣で外廊下に面している。

けど、上の部屋はそうじゃないらしい。


「修理って、どのくらい日にちがかかるんですか?」

「そうですねぇ、恐らく一週間程度ですが、業者の都合もありますので十日はみておいてください。大丈夫です。全部保険で直せると思いますよ」


門田さんはメモを取りながら淡々と話す。

十日もだなんて、私はその間どこにいればいいのだろう。

ホテルは財布に厳しいし、この街に来て間もないから友達も知り合いもいない。

どうしよう。


「荷物はこちらでお預かりして、家具もカーテンもクリーニングしますから新品同様になりますよ。冷蔵庫やタンスの中身は出しておいてください。食器や鍋類は置いてあればこちらでお預かりします」

「わかりました。それで、私はその間、どこにいればいいのでしょうか」


すがる思いで訊ねると、門田さんは一瞬きょとんとした顔をしてすぐに淡々とした表情に戻った。

この人、なんだか冷たそうだ。

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