恋の指導は業務のあとに

土曜の朝、LDKのダイニングテーブルに頬杖をついてNHKのニュースを見る。

羽生さんはソファに座っていて、コーヒーを飲みながら私と同じテレビ画面を見ている。


『社会人たるもの、常に時事を把握しておけ。新聞を読むか、ニュースを見ろ』


そう私に指導した通り、羽生さん自身も常に時事をチェックしている。

媒体はネットだったり新聞だったり、その時によって違うみたいだけれど。


テレビを見るふりをして、羽生さんの真剣な横顔を盗み見る。

“心の中は嵐”琴美はあんな風に言ったけれど、羽生さんはいつも冷静沈着で全然平気そうに見える。

彼は普通に話しかけてくるし、態度は同居し始めた時とちっとも変わらない。

羽生さんの心には微風も吹いていなくて、私の心には台風のような風がゴーゴーと吹いている。


「逆だよ、琴美・・・」


思わず小声で呟いてしまい、テーブルに突っ伏して溜め息をつく。

なんでこんなに落ち込むのだろう。


「おい、寝るな。行くぞ。約束の時間だろう」

「へ?あ、待ってください!」


先立って外に出ていく羽生さんの背中を追いかける。


『お部屋の修理が終わりましたので、確認をお願いします』


管理会社の門田さんから連絡があったのは、木曜の夕方だった。

確認して問題なければ、荷物を運び入れてくれるとのことだった。

羽生さんと二人で見た方がいいと思った私は、予定を合わせて今日の午前中にしてもらったのだ。

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