恋の指導は業務のあとに
3階に下りていくと、部屋の前には既に門田さんがいて、私たちに気付くとスッと頭を下げた。
「こんにちは」
相変わらず、笑わない人だ。
「どうぞ、見てください」
あの日無惨な状態だった部屋は、入居時以上に綺麗になっている。
「酷く濡れていたところは全部、床も天上も壁も変えましたのでほとんど新品ですよ」
羽生さんは、クローゼットやトイレやバスルームの天上裏まで見てまわっている。
「いいんじゃねえか?」
「はい。充分です」
「お二人ともOK、と。じゃあ、先にすすめます」
門田さんはスマホをいじって予定を確認して、明日にでも荷物を運び入れると約束して帰った。
「明日は引っ越しを手伝ってやるよ。荷物まとめておけ。これで同居は解消だ。あんたもホッとしただろう」
「はい、嬉しいです」
そうだ。もうトイレやお風呂に入るたびに、鉢合わせしないかドキドキしなくていいのだ。
お風呂上りで色気たっぷりの羽生さんを見ることもないし、意味不明に壁ドンされることもない。
それに、帰りが遅いと心配することもない。
同居って気を使うことばかりなのだ。
だから“寂しいな”なんて思うのは、気のせい。
「じゃあ明日お願いします」
「ああ任せろ」
彼はこの後すぐ出掛けてしまい、私は荷づくりを済ませて明日の為の買い物に出掛けた。
翌日、約束通りに部屋に家具が配置され、冷蔵庫やレンジの電化製品がきちんと動くか確認する。
もしも壊れていたら、羽生さんが買ってくれるそうなのだ。