恋の指導は業務のあとに
「良さそうだな」
「大丈夫みたいですね」
食器も鍋も衣類も全部片付けて、羽生さんは段ボール箱をまとめて外のごみ置き場に行っている。
その隙に、昨日のうちに用意しておいたお茶とケーキをテーブルの上に出した。
食べてくれるかな。
「どうぞ、お疲れさまでした」
戻ってきた彼に座るのをすすめる。
手伝ってもらったお陰で、すごく早く済ませることができた。
二人してケーキを食べてお茶を飲む。
ほんのり苦くて甘いチョコケーキが疲れた体に心地よくしみる。
「ん美味しいっ。これ、琴美オススメのケーキ屋さんのなんですよ。買って大成功」
「俺には、甘過ぎる」
少し顔を歪める彼は甘いものが苦手のよう。
それでもケーキを食べてくれた羽生さんは、テーブルの上に茶色のペーパーバッグを置いた。
「ほら、これやるよ」
「これを、私に?」
何が入っているのだろう。
手に持つと、少し重い。
袋の中には、水玉模様の包装紙にくるまれた四角いものが入っている。
開けると小説が五冊あった。
それは全部濡れてしまってページがパキパキのナミナミになった物で・・・。
「これ、わざわざ買ってくれたんですか?」
「気に入ってたんだろう。駄目になったのは俺のせいだからな」
信じられない。
あの短い時間で、五冊全部のタイトルを覚えていたんだ。
というか、まさか羽生さんが買ってきてくれるなんて思わなかった。