恋の指導は業務のあとに



『服買う?』


どうしよう?のお悩みポーズのスタンプ付だ。


「あはは、このスタンプ、カワイイ」


私よりもずっとオトナ思考の持ち主である彼女も考えることは一緒で、クスッと笑ってしまう。

買い物に行って食事をして、彼女の愚痴をきこう。

もちろん、私の愚痴もきいてもらおう。

私はすぐに、OK!のスタンプを返した。

外は雨が降りだしていて、折り畳みの傘を出して差した。



日曜日、駅前のカフェで琴美と待ち合わせる。

窓際の席に座って、大きなスクランブル交差点を行きかう人をなんとなく眺める。

私鉄にJRに地下鉄の路線が交わるここは、大きなデパートも沢山あって近隣随一の繁華街だ。

だから歩く人も半端なく多い。

手をつないで歩くカップルを見ると羨ましくなるのと同時に、いつか私も!とやる気に満ちる。

羽生さんのせいで“脱垣根”はし損ねたけれど、まだ“脱子ども”が残っている。

時間がかかるかもしれないけれど、素敵な彼氏を作って充実した20代を過ごすのだ。


アイスティーのストローをカラカラさせながら窓の外を見ていると、駅の方から巻き毛を揺らして走ってくる綺麗系女子が見えた。

琴美だ。カフェの入口でキョロキョロする彼女に手を振って合図すると、パッと花が咲いたような笑顔になった。


「ごめん、若葉お待たせ。ね、まずはどこに行こうか」


琴美は適当な大きさの旅行バッグも買いたいらしく、とりあえずデパートの鞄売り場を目指した。

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