恋の指導は業務のあとに
「ああそれは、あの方と相談してください。ホテル代請求する権利はありますよ。じゃあまた詳細が決まり次第、ご連絡いたします」
門田さんは、はじめからおわりまで愛想笑い一つせずに帰っていった。
住人が困っているのに、部屋を見ただけで私個人には何の手助けもないなんて、トラブル部署ってそんなものなのだろうか。
男と二人きりになってシーンと静まり、上からもれ続けている水音だけが煩く聞こえる。
なんだかすごく心細くて切なくて、涙が出そうになる。
ホテル代の請求って、どうやったらいいのだろうか。
この人に訊けば答えてくれる?
「あの」
「おい、中身出すの手伝うぞ。俺はキッチン側、あんたは部屋のもの出せよ」
「え?」
「俺は明日仕事なんだ。今からサッと済ませるぞ。デカイ袋ないか」
「あ、買ったばかりのごみ袋ぐらいしか、ないです」
「ごみ袋か。仕方ねえな。ほら、あんたも持って。ほら、動け!」
「は、はいっ」
ごみ袋を渡されて、急いで部屋にある小物を整理し始める。
ん?ちょっと待って?
どうしてあの人に命令されているのだろうか。
この部屋の主は私で、しかも被害者で、あの人は加害者なのに。
釈然としないながらも、どのみちやらなければいけないことなので黙々と進める。
さっきほとんどのものをトランクに詰め込んだので、残っているのはタオルや雑貨類くらいだ。
クローゼット内を空にして、ローチェストを片付ける手がぴたっと止まった。
「これ、お気に入りだったのにな・・・」