恋の指導は業務のあとに
横をすり抜けようとすると、持っていた荷物をスッと取られた。
「・・・あ」
「見た目よりも軽いんだな」
ぼそっと呟いて、マンションのエントランスに歩いて行ってしまう。
「え・・・まさか、持ってくれるの?」
呆然と突っ立っていると、羽生さんはエントランスのドアの前で立ち止まった。
「なんだ、早く来い」
「あ、すいません。えっと、羽生さんはどこに行っていたんですか?」
「ちょっと、親戚の顔を立てに行って来た」
そう言って、羽生さんはくくっとネクタイを緩める。
親戚の顔・・・それって、やっぱりお見合いなのだろうか。
羽生さんには彼女がいるはずなんだけど。
でも、なんとなーく分かる気がする。
うちの料亭でも、板前で後継ぎである兄には降るように見合い話がある。
それはどれも親戚からの話で、たまにお得意さまからもあって、兄は断るのに四苦八苦しているのだ。
羽生さんにもそんなお話が来るのだ。
そりゃそうだよね、アラサーだもの。
「ほら、荷物」
「あ、ありがとうございました」
結局、部屋の前まで運んでくれた。
意外に優しいところもあるのだ。
じゃあな、とひらひら手を振って外廊下を行く羽生さんの背中を見つめる。
お見合い、どうだったんだろう。