恋の指導は業務のあとに

商品部のバスはこちらでーす!と、バスガイドさんが観光バスの前でにこにこと笑顔を振りまく。

バスの割り振りは当然部課ごとで、総務部の琴美と別れてしまうのは仕方がない。

また後でねと言葉を交わして、どこに座ればいいんですか?と幹事さんが持つ座席表を見せてもらう。

営業課は男子ばかりだけれど、私は・・・?


「見るまでもない。カキネは俺の隣だ。来い」


上から声が降ってきて、腕をクイッと引かれた。

抵抗する間もなく一番後ろの窓際の席に座らされ、隣で羽生さんが長い脚を組む。

近すぎるし、何も話さないし、互いに私服を着てるだけで、営業に行くのと変わらない。

マイナス10度の気は柔らかくなっているけれど、ものすごく緊張するんですが・・・。


道中はやっぱり世間話か何か話した方がいいよね。

でも何を?

時事ニュースに関して?


でも思い付くのは“飲み会の翌日は何で怒っていたの?”とか、“俺が上にいること忘れるなって、どういう意味?”とか、“日曜はお見合いしたの?どうだった?”とか、“彼女は?”とか、ぜーんぶ訊きにくいことばかりだ。

さらっと何気なく訊くだけなのに、どうしてこんなに躊躇するのだろう。

羽生さんは私の心に嵐を起こしてばかりだ。


みんなが席に座りはじめ、幹事がお菓子の入った袋を配ってくれて、飲みものは前の冷蔵庫にありますので自由にどうぞと言う。

前の座席にいる清水さんが、営業課のみんなのリクエストを訊いてくれた。

< 62 / 111 >

この作品をシェア

pagetop