恋の指導は業務のあとに

新人の私がすべきことなので、私が取りに行ってきますと立ち上がるも長い脚が邪魔で出られない。

出たいんですが、と言うとジロリと睨まれた。

何で??

私たちの様子を見て苦笑いする清水さんに、いいから座っていてと止められて元に戻る。

ビールを飲む人がいるけれど、私にはお茶が配られる。

羽生さんもお茶だ。


「それでは、出発しまーす」


ガイドさんの声の後にバスがゆっくり動き出す。

羽生さんは腕を組んで俯いた姿勢をしているので、そっと顔を見ると目を瞑っていた。


まさか、寝ているの?

やっぱり疲れているのかな。

課長はまだ帰ってきていないし、相変わらず仕事が大変なのだ。

早く帰ってくればいいのに、海外で何をしているのだろう。

なんだか無性に腹が立つ。

そりゃあもちろん仕事なのだろうけど、部下がこんなに頑張っているのに・・・。


理不尽にも湧いた怒りのやり場をカーテンにぶつける。

パシパシ叩いていると、これから高速に入りまーすとガイドさんのアナウンスがあった。

直後、バスが大きなカーブのある道に入って遠心力が働く。

その拍子にずるずると傾いてきた羽生さんの頭が、コテンと私の肩にのった。


「えっと・・・これは、どうすれば」


スゥスゥと寝息が聞こえる。

サラサラの髪が頬に当たってくすぐったい。

ドキドキする。

どんどん重くなってくる。

でもイヤではないし、起こしたくない。

ううう、これでは動けないんですが・・・。

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