恋の指導は業務のあとに

営業課の席は毎年一番後ろの部分を陣取り、羽生さんはいつも一人で座って道中ずっと寝ていると清水さんに聞かされたのは、サービスエリアに停まったときだった。


なんだ、スペシャルに疲れていたわけではないのか!


肩にのってる頭を思いっきりぐぐっと押し戻すと、羽生さんは目を覚まして、のんびりと伸びをした。


「羽生さん、サービスエリアですよ!」

「何を怒ってるんだ」

「何でもないです!」


スタスタと先を歩く羽生さんを走って追い越す。

もうっ、なんだか損した。ドキドキとか心配とか、いろいろ!

次は寝てても絶対起こすのだ!


「琴美はどこにいるかな?」


サービスエリアの屋台のそばには社員らしき人がたくさんいるけれど、我が同期の姿がない。

仕方がないので屋台に目を向けると、和牛の串焼き、たこ焼き、だんご、食欲をそそるものがずらりと並んでいた。

ソフトクリームもいいな。


「美味しそう」

「そうだな。カキネは何を食う」

「は?」


財布を出してる羽生さんが私の隣に立った。


「屋台のものを食うのは、サービスエリアの醍醐味だろう。早く言え」


もしかして、おごってくれるの?

いつもランチをおごってもらっているのに、旅行中も?

結局、お弁当は一度も作れていない。

正確には、作るけれど人様にあげられるレベルのものが作れないのだ。

料亭の娘なのに。


「いいです。自分で買います」

「いいから、カキネは俺におごられてろ」


これが、大人の男の余裕というものだろうか。

若い女子には財布を出させない、みたいな。

そうか、デキル男は経済力も違うのだ。


「あ、じゃあ、そのくし」

「ああっ、羽生さぁん!」

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