恋の指導は業務のあとに
ローチェストの上に並べてあった5冊の恋愛小説。
びっしょりと濡れて紙がふにゃふにゃになって、綺麗だった表装はデコボコしている。
「渇いたらナミナミしてパキパキになりそう。買い直した方がいいみたい」
これはお気に入りの小説サイトから出版された本で、この中で紡がれている夢のような恋愛にすごく嵌まっているのだ。
毎月一冊ずつ買っていて、中でもこの5冊だけは何度も読み返している。
社内恋愛とか御曹司との恋とか、ヒーローがヒロインを一途に愛していて、“こんな恋がしてみたーい!”なんて、すごく憧れてしまうのだ。
就活に疲れたときは、これを読んで癒されて力に変えていた。
手放せなくて、一緒に持ってきたのにな・・・。
「へえ、『恋愛注意報~レンタル彼氏は御曹司!?~』『シンデレラは王子様がキライ』」
急に頭のすぐ上で呟くような声がして、体がびくっと跳ね上がった。
思わず小説を隠しつつ仰ぎ見ると、いつの間に傍に来たのだろうか、男が覆い被さるようにして背後から私の手元を覗きこんでいる。
「な・・・」
「あんた、こういうの読むのか」
「そうです。お気に入りです。いけませんか。それより、終わったんですか?」
「ああ、だからこっちを手伝いに来たんだ。ここ済んだのか?」
クローゼットを開けて何もないことを確認すると、男は私の作業する様子を静かに見ている。
小説は濡れてない床に重ねて置いて、ローチェストの中身を全部袋の中に入れた。
小サイズのゴミ袋でも半分も入っていない少なさだ。