恋の指導は業務のあとに
「それで全部か。荷物ないんだな」
「引っ越してきたばかりなんです」
「・・・終わったなら行くぞ」
男の部屋の玄関までくると、手に持っていたゴミ袋を三つ渡してくれた。
「飲みかけだった牛乳は中身を捨てておいたぞ」
「ありがとうございます」
卵やハムや野菜他、調味料類、それに洗剤類がそれぞれに分けて入れられている。
この人、割と気が利くのかもしれない。
「で、あんた、泊まるとこあるのか」
「ないです。だからホテルを探そうかと」
「じゃあ俺のとこに泊れよ」
「はい?」
今、俺のところって言いました?
まじまじと顔を見上げてしまう。
この人は何を言っているのだろうか。
知らない人にはついていったら駄目って、子供から大人までの共通の常識だ。
いや、この場合は知ってる人になるのかな?
いやいや上階の住人というだけで、たった今知り合ったばかりだし、名前もどんな人かも分からない。
あ、意地悪っぽい感じだけは伝わってくるけども。
「・・・ホテルでいいです」
「そんなの不経済だろ。十日だぞ。大丈夫だ、子供に手を出すほど俺は飢えていない」
子供と言われてムカッとする。
初対面の女子に向かってそんなことを言うなんて、なんて失礼なんだろう。
そりゃあ確かに、身長が155センチしか無くてあなたよりも遥かに背が低いですけど。
童顔で中学生に間違えられたりしますけど!
ついでに言えば恋愛もしたことがありませんけど!!
「子供じゃないです。これでも成人過ぎてますから。仕事だって明日からするんです。社会人です」
プンと唇を尖らせて睨むと、男はふぅんと鼻を鳴らした。