恋の指導は業務のあとに
「アイツと俺ともう一人、今は海外勤務してる中谷と入社してすぐ仲が良くなった。誰が一番先に上に行けるかって、常に刺激しあっていたな。結局中谷が一番早かったな」
「いい関係なんですね」
「よく三人で飲みに行ったりもした。カキネも同期の受付の女子社員と仲が良いだろ?そんな感じだ。今は互いに忙しくて、そんなこともできねえな」
中谷は元気かなって、珍しくも生き生きと楽しそうに話をしてくれる。
私の知らない羽生さんが目の前にいる。
なんだか遠くにいるようで、複雑な気分になる。
私の知らない時間を柳田さんと共に過ごして、お互いに好きになって恋人になったんだ。
どうして別れちゃったのだろう。
今は、どう?
「魅力的な人ですよね」
「あー、だが柳田は、姿は女だが性格は男みたいなヤツだぞ。可愛いげが、ない」
「あら、聞き捨てならないわね。誰が、可愛くないのかしら」
急に横から張りのある声が飛んできて、振り向けば柳田さんがこちらに向かって歩いてきていて、テーブルの横に立った。
「・・・柳田」
「到底太刀打ちできない子とは、比べないでほしいわ」
「誰とも比べてねえよ。一般論を言ったまでだ。盗み聞きはよくねえぞ」
「失礼ね、聞こえてきたのよ。ね、彼女とお楽しみのところ悪いけど、そろそろ会議の時間よ。みんな集まってるわ」
「もうこんな時間か」
「資料は出来てるの?」
「当たり前だ。俺を誰だと思ってる」
二人が会話してるのを聞きつつまわりを見ると、社員食堂には私たち以外は誰もいなかった。
もう昼休みが終わるのだ。
「あ、羽生さん、私が片付けておきますから。どうぞ会議に行ってください」
「じゃあ頼む。カキネ、午後はA社に見積書持って行くのを忘れるなよ」
「はい。14時ですよね、忘れません!」