恋の指導は業務のあとに

「・・・じゃあ、お願いします」


助手席に座ると、清水さんはすぐに車を走らせた。


「届けるのは見積書っすか?」

「はい。説明もしてくるように言われています。今から心臓がバクバクしてて口から飛び出てきそうです」

「そんなに緊張しなくても大丈夫っすよー」


オーバーだなあと笑う清水さんは、どんなときも緊張しなさそうだ。

度胸がありそう。


「清水さんは、いつ独り立ちしましたか?私はまだ見積りのシミュレーションも全然ダメなんです。才能ないんでしょうか」

「うーん、最初の配属は適材適所なはずですけどねえ。羽生さんは厳しいっすから。でも、見積書を届けるのを任せられたってことは、信頼されてるってことっすよ?」

「そうだと嬉しいんですけど、多分違います。ただ単に忙しいからだと思います」

「うーん、そうかなあ。羽生さんの性格から考えれば、例え忙しくても時間を作って行くと思います。届けるのはそれほど時間かかりませんからね」

「清水さんがそう言ってくれると、そうかなって思えてきました」


嬉しい。素直にそう思える。

いつも叱られてるから、私ってダメなんだなあって、思っていたから。


「ありがとうございます」って笑顔を向けると、清水さんは「いや別に」とモゴモゴと言って頭を掻いた。

その顔がちょっぴり赤い。


「あ、そう、俺の独り立ちっすけど・・・あーそうだ。池垣さん、今夜暇っすか?」

「え、予定は何もないですけど」

「じゃあ食事に行きましょう。いい店知ってるんです。つきあってくれたら、営業のこと、いろいろ教えますよ。短い時間じゃ話しきれないっす」

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