恋の指導は業務のあとに
早速、A社へ行ったときのことを話してみる。
実は、書類を渡して「これが、この商品の見積書です」と各見積もりの簡単な説明をしただけに終わってしまい、へこんでいるのだ。
羽生さんからいろいろ細かく教えてもらったことを説明して、質問にも答えるつもりでいたのに全然できなかった。
というか、させてもらえなかった。
「A社の田山さんは、見積書をさらっと見て“不明な点があれば羽生さんにうかがいます”って、すぐにしまっちゃったんです」
それで“ご苦労様でした”と言われてお辞儀をされ、私も丁寧に挨拶をして帰社した。
田山さんと会っていたのはものの5分程度だった。
「これって、私のことを営業ではなく“羽生さんのお使い”としか見てないんですよね?頼りないって思われたのかなあって、確かに新人ですけど」
外見が幼いから余計に頼りなく見えたのかと考えると、ますますへこむ。
なんで営業課に配属されたのだろうか。
「そうっすねえ、まあ、メインの営業は羽生さんだから、それは仕方ないっすよ。多分、俺が見積りを届けても一緒の反応っす」
「え、そんなもんなんですか?」
「そんなもんっす。企業と企業の付き合いというよりも、企業の担当者と営業との付き合いっすからね。その田山さんも、羽生さん以外とはあんまり話さないんじゃないかなあ。まあ見積りまでいけばほとんどの場合契約成立しますし、その前にしっかり説明してあれば疑問点は無いに等しいです。確認のみで、あとはA社でどれにするか決めるだけっす」