恋の指導は業務のあとに

早速、A社へ行ったときのことを話してみる。

実は、書類を渡して「これが、この商品の見積書です」と各見積もりの簡単な説明をしただけに終わってしまい、へこんでいるのだ。

羽生さんからいろいろ細かく教えてもらったことを説明して、質問にも答えるつもりでいたのに全然できなかった。

というか、させてもらえなかった。


「A社の田山さんは、見積書をさらっと見て“不明な点があれば羽生さんにうかがいます”って、すぐにしまっちゃったんです」


それで“ご苦労様でした”と言われてお辞儀をされ、私も丁寧に挨拶をして帰社した。

田山さんと会っていたのはものの5分程度だった。


「これって、私のことを営業ではなく“羽生さんのお使い”としか見てないんですよね?頼りないって思われたのかなあって、確かに新人ですけど」


外見が幼いから余計に頼りなく見えたのかと考えると、ますますへこむ。

なんで営業課に配属されたのだろうか。


「そうっすねえ、まあ、メインの営業は羽生さんだから、それは仕方ないっすよ。多分、俺が見積りを届けても一緒の反応っす」

「え、そんなもんなんですか?」

「そんなもんっす。企業と企業の付き合いというよりも、企業の担当者と営業との付き合いっすからね。その田山さんも、羽生さん以外とはあんまり話さないんじゃないかなあ。まあ見積りまでいけばほとんどの場合契約成立しますし、その前にしっかり説明してあれば疑問点は無いに等しいです。確認のみで、あとはA社でどれにするか決めるだけっす」

< 88 / 111 >

この作品をシェア

pagetop