恋の指導は業務のあとに

「そう、なんですか。羽生さんそういうことは教えてくれないんです。まだその段階じゃないからかもしれないですけど」

「俺でよければ、どんどん教えますよ。何が聞きたいっすか?」


そのあと清水さんは、私のリクエスト通り、新人の頃の失敗談と成功談、それにトラブル対処した話をしてくれた。

営業に出れば、多かれ少なかれ経験して潜り抜けていくことで、失敗したとしてもフォローはみんなでするから何も心配しなくていいとも言ってくれた。

自分がそうしてもらえたから、と。


「俺が池垣さんを支えますよ!」


笑顔でそう言ってくれる。

清水さんはカルイ人だと思っていたけれど、割と真面目で優しいのだ。

清水さんの話を聞いていると、どんどん気持ちが楽になってくる。

難しく考えすぎていたのかな。


ゆっくり食事をしてレストランを出る。

俺が誘ったからと言って、清水さんはお金を払わせてくれなかった。



「今日はありがとうございました。食事もおいしかったですし、すごく勉強になりました」


マンションの前まで送ってくれた清水さんに、向かい合ってお礼を言う。

すると、清水さんが顔をゆがめたのが見えた瞬間、一歩で近付いてきた彼のスーツで視界を覆われた。

ぎゅっと抱き締められていて、逃げる間もない急な出来事で、声も出ない。

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