恋の指導は業務のあとに


「ま、繰り返し遊べば笑顔も出るかもしれないし、様子を見るわ。ごめんね、心配かけて」


撮影スタッフのところに戻ろうとする柳田さんを、羽生さんが呼び止めた。


「柳田。子供が笑顔になればいいんだな?」

「・・・そうだけど、何かいいアイデアがあるの?」

「ああ、少し時間をもらえるように頼めるか」

「少しだけなら大丈夫だと思う。何をするの?」


怪訝そうな顔をする柳田さんと同じく、私も、羽生さんの口角を上げただけの笑顔をじっと見る。


「じゃあ、スタッフと掛け合ってくれ。了承が取れたら、カキネ、あの子と少し遊んで来い」

「ええ!?私、ですか?」


いきなり名指しされて驚いてると、柳田さんも同じで「彼女に?」って声を上げた。


「商品で遊んでいて特徴を掴んでいる。それに、カキネなら子どもの笑顔を引き出せるはずだ」


柳田さんが掛け合った結果15分だけ時間をもらい、みんなが見守る中、私は『かえっこ、ころりん』で遊び続ける男の子のそばに座る。


「ねえ、これ、面白い?」

「うん、おもしろい!だけど、むずかしいの。ここでいつもおちちゃう」


男の子が指さす場所は、穴とシーソーが極近くに仕掛けられたところで、穴に気を取られていると、シーソーに乗らないで下に落ちる、という超難関な場所だ。

組み方は一番簡単なバージョンだけれど、子どもの知育玩具にしては、難しい。

ここをクリアしないと別の穴から玉が出てきて、最後まで行ってチリリーンと鳴らないのだ。

達成感がない。

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