恋の指導は業務のあとに

「好きな人がいるんです。その人は別の人が好きかもしれないんですけど、それでも気持ちは変えられないんです。だから、清水さんの気持ちには応えられないです」

「・・・そうっすかあ。やっぱりなあ」


和食のレストランの中、清水さんはため息をついて天井を仰いだ。


「ごめんなさい」

「いや謝られると惨めになるんで、やめてください」


そう言われてまた謝りそうになって慌てて口をつぐむ。

こういうときは、どう言えばいいのだろうか。

清水さんの切ない気持ちが伝わってきて、私も切なくなる。

だって、振られた気持ちがどんなものか、私にもよくわかるのだから。


「実は俺、池垣さんが好きな人が誰なのか、なんとなくわかるんです。わかっていても、好きだった。可愛くて、守ってあげたくてたまらなかった。だから、池垣さんの気持ちはよくわかります」

「ありがとうございます」


本当に清水さんは素敵な人で、どうしてこの人を好きじゃなかったのだろうと思う。

どうして、あの怖い上司なのだろう。


「俺を振ったこと後悔させます。それで、今度は池垣さんから俺にコクるんです」

「え、それって、私は振られるんですか?」


清水さんは真顔で「そうっすよ」と言うから、なんだか泣きそうになる。

やっぱり清水さんは怒っているのだ。


「そう、ですよね。どうぞ、そのときは思いっきり振ってください」

「やだな、冗談っすよー。でも、見ててください。俺も池垣さんを見てますから、お互いにいい男といい女になりましょう」


冗談だと笑ってくれる清水さんは大人だ。

いつか本当に後悔するかもしれない。

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