恋の指導は業務のあとに
レジ前でお財布を出すけれど、私から誘ったのに清水さんは会計をさせてくれなくて困ってしまう。
私って、そんなにお金がないように見えるのだろうか。
そりゃあ確かに、事務職さんよりはスーツ代にお金がかかるけれども。
「これが、最後っす。あと、家まで送らせてください。それで池垣さんへの思いは断ちます。正直、時間かかりますけど」
そう言われてしまえば、断れない。
その気持ちをありがたく受け取った。
電車と徒歩。
一緒にいる間はとりとめのない話をして過ごす。
明日も明後日も、清水さんとは同じ課で励まし合って仕事をしていく仲間なのだから、ぎくしゃくしたくない。
マンションの前の道を歩いていると、逆方向から来たタクシーが道の端に停まった。
「あれ?あれ、羽生さんじゃないっすか?」
「え?」
「まさか、ここが羽生さんちっすか?マジで同じマンションっすか」
うーと唸る清水さんをよそに、私はタクシーから降りてきたもう一人の人に釘付けになっていた。
あれは、どう見ても、柳田さん。
どうして一緒にいるの?
やっぱり二人は・・・。
「おまけに柳田さんじゃないっすか。うわ・・・あー、あれは、何か、そう、事情!きっと事情があるんですよ!」
道を渡ってくる羽生さんと目が合った瞬間、隣であたふたする清水さんを置いて、私は今来た道を引き返すように走り出した。