恋の指導は業務のあとに
仲良くマンションに入っていくところなんて、見たくない。
その一心だった。
やみくもに走っていると、後ろから足音が聞こえてきた。
清水さんが追いかけてきてくれたのだ。
息が苦しくなって止まると、はあはあと荒い息をしてるのがすぐ後ろでしている。
「清水さん、私、早速、失恋しちゃいました。思っていた通りの相手で、笑っちゃいます・・・」
わかっていたことなのに、覚悟していたのに、涙が出てくる。
「誰が、誰に、失恋したんだ」
「それは、私が、羽生さんに、しつ・・・って、え?」
この声は、清水さんではない?
まさか・・・。
「ったく、独り立ちさせるまではと、我慢してたんだが」
「は、羽生さん?」
羽生さんが、どうして追いかけてきたの?
柳田さんは?
というか!さっき私、告白まがいなこと言ってしまっている!
「あの、今のは、その」
「来い。俺が誰が好きなのか教えてやる」
「は?」
どういうこと?
手首を掴まれて引き摺られるように連れて来られたのは、マンションの4階で、もちろん羽生さんの部屋だった。
玄関には、ヒールの高いパンプスが揃えて隅っこに置いてある。
誰のものか考えるまでもない、柳田さんのだ。
誰が好きなのかって、どうして私に見せつけるの?
思いが断ち切れるように、打ちのめしたいの?
「羽生さん・・・酷いです。そんなことしなくてもわかってます・・・だから、離してください。家に、帰ります。離して・・・」
涙が頬を伝って、慌ててぬぐう。
家に帰るまでは我慢するつもりだったのに、本当に情けない。