婚約者はホスト!?④~守りたいもの~(番外編あり)
「松井くん どこにいてもってどういうこと? もしかして、異動になったの?」
私の問いかけに、松井くんは一呼吸おいてから静かに口を開いた。
「なつ 俺さ ミラージュホテル辞めたんだ」
「えっ! いっ いつ?」
「辞めたのは、昨日…」
「どうして? いったい何があったの?」
私は思わず身を乗り出して、松井くんの腕にしがみついた。
「実は…さ、俺の実家って、金沢にある老舗の旅館なんだよ… ミラージュホテルに入ったのも、跡取りとしての社会勉強がしたかったから… 本当はあと5年くらいは、こっちにいるつもりだったんだけどな… オヤジが体調崩しちゃってさ… 急遽 戻ることになったんだよ…。」
「そう…なんだ… じゃあ 今日で松井くんとも…お別れってこと?」
「そうだな 今度こそホントにお別れだな…
寂しいか?」
「そりゃ 寂しいに決まってるでしょ!」
なんだかんだいって、今まで私は、松井くんに
たくさん助けられてきた。
松井くんの気持ちには応えられなかったけれど、それでも 松井くんは私のよき理解者として変わらずそばにいてくれた…
だから 私は松井くんのことを、かけがえのない大切な同期だと、思っているのだけれど…
「じゃあ おまえのこと連れ去ってもいい?」
耳元に松井くんの切ない声が響いた。
「えっ…」
私はビクッとして、反射的に松井くんから離れた。
「冗談だよ…」
松井くんが、ふっと笑った。
「えっ あっ そうだよね ビックリした…」
「でも…」
安心したのもつかの間、松井くんが再び熱い視線を私に向けた。
「な 何?」
いつもと違う空気を感じて、私はゴクリと唾を飲み込んだ。
「最後に、なつのこと抱きしめさせて…」
「えっ ちょと 何言って…」
「ただ 抱きしめるだけだから…」
そう言って、松井くんは私の腕をそっと引き寄せた。
いやいやいや
抱きしめるだけって…
確かに松井くんには、今まで何度か抱きしめられたことはあった…
胸を借りて泣いたこともある…
でも 今は…
気持ちを知ってて、いいよなんて言える訳ない
「離して… 松井くん 」
私は首を横に振りながら、松井くんの胸を押しのけた。
「なつ 頼む 最後だから… な? いいだろ?」
松井くんがそう言って、私をもう一度、抱き寄せようとしたその時だった…
「最後だろうが何だろうが、ダメに決まってんだろ!」
圭司の低い声が、部屋の中に響いた。