婚約者はホスト!?④~守りたいもの~(番外編あり)
お店の前では、圭司の後輩の男の子が私達を待っていてくれた。
ちょっと小柄で可愛い感じのイケメンさんだ…。
「先輩 このビルの5階です! 車はこの裏のタイムズに止めてください。あっ それから電話で言ってたお友達の三人も、もう店に着いてますから…」
後輩くんは車に駆け寄ると、運転席の圭司にそう声をかけた。
「分かった。じゃあ 三人ここで降りて貰うから、あとよろしくな。俺となつはこれで帰るよ…」
「えっ! 先輩、帰っちゃうんですか?」
「だって、合コンすんのに俺となつがいても邪魔だろ? それに、今日、車だから飲めないし…」
「そんなこと言わないで、今日くらい俺達に付き合って下さいよ~ いつも、奥さんの元へとすぐ帰っちゃうんですから~ ノンアルも結構、上手いですから…」
「おまえな…」
しつこく圭司を誘う後輩くん…
すると、
「いいじゃないですか~ 瀬崎さん達もご一緒しましょうよ~ 私もなつさんと飲みたいですし…」
後部座席にいた恵梨香ちゃんまでも、身を乗り出して仕切りに私達を引き止めた。
「じゃあ ちょっとだけ顔出す? なつ」
「あっ うん…。」
「じゃあ 俺、車置いてくるから、なつは皆と一緒に先行ってて…。」
「うん…」
こうして、急遽、私達は恵梨香ちゃん達の合コンに混じることになったのだけれど…
-・-・-
「なつさん 大丈夫ですか?」
顔を上げると、先ほどの後輩くんが、心配そうに私を覗き込んでいた。
それもそのはず、私はドリンクのメニューを持ったまま、テーブルに顔を埋めてしまったのだから…。
「ごめんね ちょっと気分が悪くて…」
「あっ 水もらいましょうか?」
「ううん 大丈夫 気にしないで…」
無理やり笑顔を作ってそう言ったけれど、再びメニューを立てて顔をうっぷした私に、後輩くんは困惑の表情を浮かべていた。
そうだよね…
気にするなって言ったって、これじゃ気にしちゃうよね…
でも、一番端っこの席にしてもらったのは正解だった。
本当は真ん中の席を空けてくれたのだけど、断ってテーブルの一番端の二つを私と圭司の席にしてもらったのだ。
幸い、斜め前に座っている男の子も、隣の女の子との会話に夢中で、周りなど目に入っていない様子だし…
私の異変に気づいているのは、隣にいる後輩くんだけだ。
それでも、私がこのままこうしていたら、皆が気付くのも時間の問題だろう。
とにかく、せっかく盛り上がった合コンの雰囲気を、私のせいでシラケさせる訳にはいかない…
「ちょっと、トイレに行ってくるね…」
私は後輩くんに耳打ちして、そっと席を立った。
うー やっぱり、気持ちが悪い…。
車に乗っていた時から、ちょっと胃がムカムカするなとは思っていたのだけど、このお店に入った途端、急に悪化してしまったのだ。
お腹が空いているせいかとも思ったけれど、テーブルの上にあった焼き鳥を見たら、余計に気分が悪くなった。
ちょっと、外の空気でも吸おう。
私はビルの下へと降りて、階段に腰掛けながら、圭司が来るのを待つことにした。
けれど、一向に戻ってこない圭司…。
遅いな… 駐車場、空いてなかったのかな…
それとも、何かあった?
不安になって、圭司の携帯にかけてみたけれど…
『プー プー プー』
通話中らしく、繋がらなかった。
そっか… 誰かと電話してるから遅いのか…
仕方ない…
私は携帯をバッグにしまい、うずくまるようにして目を閉じた。
圭司が来たら、このまま家に帰らせて貰おう。
せっかく誘ってくれた恵梨香ちゃんには申し訳ないけれど、今日は男の子もたくさんいるし、さっきも楽しそうにしていたから、きっと許してくれるだろう…。
込み上げてくる吐き気と戦いながら、そんなことを考えていた。