婚約者はホスト!?④~守りたいもの~(番外編あり)
「なつ? お店に行ってなかったのか?」
顔を上げると、圭司が驚いた表情で私の方へと歩いて来た。
「あ 遅かったね… 圭司…」
小さな声でそう言うと、圭司は傘を閉じて私の前にしゃがみ込んだ。
「ああ ごめん ちょっと仕事の電話してたから… それより、なつ どこか具合でも悪いのか?」
心配そうに私の顔を覗き込む圭司…。
「うん お店に入ったんだけど、なんか気持ち悪くなっちって… ごめん 私 もう 帰りたい…」
「そうか わかった。とりあえず、冷えるからこれ着てな…」
圭司は自分のスーツのジャケットを私の肩にかけると、立ち上がって誰かに携帯をかけ始めた。
少しすると、血相を変えた後輩くんがやって来た。
「なつさん! ここにいたんですね トイレにいなかったから探してたんですよ… 大丈夫ですか?」
「うん ごめんね… 心配かけちゃって…」
なんだか後輩くんには、申し訳ないことをしてしまったようだ。
「高木、悪いけど俺となつはこれで抜けるからさ、車もってくるまで、なつのこと頼んでもいいか?」
「はい 分かりました。」
「じゃあ なつ ちょっと待ってろな…」
圭司はそう言って私の頭を優しく撫でると、パッと傘を開いて再び駐車場へと戻って行った。
-・-・-
マンションに着いて、私はすぐにベッドへと横たわった。
実を言うと、この胃の不調は、二週間くらい前から続いていた。
でも、食べれない程ではなかったし、それほど気には留めてなかったのだけど、今日は食べ物を見ることさえ耐えられなかった。
特にストレスを抱えている訳でもないのに…
一体、どうしちゃったんだろう…私。
何か変な病気だったらと思うと、不安が押し寄せる。
「なつ 大丈夫か? お粥でも作ろっか?」
ガチャとドアが開き、圭司が寝室へと入って来た。
「ありがとう でも、今は何も食べたくない… やっぱり、気持ちが悪くて…。」
「そっか… じゃあ、今日はこのまま寝た方がいいかもな…」
圭司はベッドに腰掛けて、私の頰にそっと手を触れながら優しくそう言った。
「ねえ 圭司… 明日、ゆずちゃんの赤ちゃん見に行く約束だったでしょ? でも、こんな状態なら断った方がいいよね…」
「うーん とりあえずさ、明日は俺も休みだし、一緒に病院行って、ちゃんと診てもらおう。明日の予定はそれから決めようよ…」
「そうだね でも、病院か…怖いけど、やっぱり行った方がいいよね。何の病気にしたって、早期発見が大事だって言うしね…」
「えっ 病気って、なつのは… あ いや まだはっきりしてないもんな…」
圭司は独り言のように呟いた。
「え?」
「ううん とにかく、今日はゆっくり休もうな…」
圭司に優しく髪を撫でられながら、私はいつの間にか、深い眠りについていた。