婚約者はホスト!?④~守りたいもの~(番外編あり)
「なつ おいで 髪、乾かしてあげるから…」
圭司は私をベッドにすわらせて、ドライヤーのスイッチを入れた。
温かい風になびく髪を、圭司の手が優しく触れる。
なんだか心地よくて、このまま眠ってしまいそうだ。
「終わったよ なつ」
ハッとして顔を上げると、圭司がクスリと笑っていた。
「やだ 私、ついうとうとしちゃって… あ ドライヤーありがとね… 圭司」
私は圭司の胸にしがみついた。
何だか無性に甘えたくなってしまったから…。
圭司は私のおでこにキスをひとつ落とすと、愛おしそうに私を見つめた。
「体の方は、大丈夫?」
「うん 大丈夫。つわりもさっぱりしたもの食べたら、だいぶ楽になったし…。昨日はたぶん、煙草と揚げ物の匂いにやられちゃったんだと思う。これなら、明日は仕事にもちゃんと行かれそう。」
「そっか… でも、あんまり無理するなよ。大事な体なんだし、これからは、ちゃんと俺に甘えろよ。」
「うん 分かった。ちゃんと甘える…」
そう言って、再び私は圭司の胸にじゃれついた。
「なつ これじゃ、ただの甘えん坊だろ 俺が言ってるのは…」
「ちゃんと分かってるよ…」
クスっと私が笑うと、圭司もフッと顔を緩めた。
「そうだ なつ 今日、杉本が言ってたことだけど…」
突然、思い出したかのように、圭司が切り出した。
「えっ ああ… 秘書さんとのこと?」
その話は、私もちょっと引っかかっていた。
別に浮気を疑っているとか、圭司を信じられないとかでは決してないのだけれど…
なぜ アシスタントの子を帰してまで、二人きりで会う必要があったのかと疑問に感じてしまうのだ。
そんな私の心を知ってか知らずか、圭司はすまなそうにこう言った。
「あの場で、ちゃんと説明しなかったから、なつに嫌な思いさせたよな。ごめん… それでも、俺を信じてくれてありがとな。あの日、社長秘書とこっそり会ってたのは、俺がヘッドハンティングされてたからだよ。その話は、その場で断って、次の訪問先を一人で回ってたんだけど… なんか、それが変な誤解を生んだみたいだな… ごめんな」
「そっか… そうだったんだ。」
ヘッドハンティングの話なら、コソコソしちゃうのも無理はない。謎が解けてホッとしている私の隣で、今度は圭司がため息を漏らした。
「それにしても、杉本には参るよな… 今までも、俺が誰かに誘われる度になつに報告してたんだろ? どうりで帰ってくると、なつの様子がおかしかった訳だよな… まさか、藤森までもグルたったとは…」
圭司は恨めしそうに、ブツブツと呟いた。
「うん でも ゆずちゃんは、圭司が全然相手にしてないことも、ちゃんと教えてくれてたの…。勝手に私が落ち込んでただけ… 既婚者の圭司に言い寄ってくるのは、私達に子供がいないせいなんじゃないかとか… 子供を作らないほど夫婦仲が悪いと思われてるんじゃないかとか、そんなことばっかり考えちゃって…。私、子供のことで色々悩みすぎて、情緒不安定だったんだと思う。だって、ホントにあの頃、辛かったから…」
気づけば、私の目からは涙が溢れ出していた。