婚約者はホスト!?④~守りたいもの~(番外編あり)
「なつ?」
圭司が心配そうに、私の顔を覗き込んだ。
今思うと、随分私は自分を見失いかけていたと思う。
子供を作る事に、あまりにも必死だったから…
不妊治療を諦めて、圭司に二人で生きていこうと言われてからは、精神的に大部落ち着いていたけれど、それでもやはり、幸せそうな家族連れを見たりすると、羨ましくて堪らなかった。
「これでやっと、圭司をパパにしてあげられるね… 私」
そう言って泣きながら笑った私を、圭司がきつく抱きしめた。
「ありがとな なつ なつもお腹の子も、ちゃんと俺が守るから…」
圭司の胸の中で、私は暫くこの幸せを噛み締めていた。
-・-・-
「お母さん 何だって?」
私がお母様との電話を終えたタイミングで、お風呂上がりの圭司がベッドの中へと入ってきた。
私は子機をベッドの脇に置いて、圭司の方に顔を向けた。
「うん すごく喜んでたよ。ハワイから帰ったらお祝いしようって張り切ってた。」
圭司は優しく笑って、『よかったな』と呟いた。
私の両親はハワイの家を処分するために、先週から日本を離れていたのだ。
時差がある為、夜が更けるのを待って、ようやく報告することが出来たけれど…
実は、お母様から意外な真実を聞かされたばかりで、まだ少し頭が追いつかない。
「あのね 圭司… お母様から全部聞いたの 色々ありがとう…」
「そっか… どういたしまして。」
圭司は何のことだか、すぐに察したようで、少し照れながらそう返事をした。
『なつが妊娠できたのは、圭司さんのおかげなのよ…』
先ほどのお母様の言葉を思い出す。
『実はね、なつが副作用を起こして入院した時、圭司さん、ハワイにいた私達に電話をよこしたの お母さん すみませんっ なつに不妊治療を諦めさせてしまいましたって謝ってきて… それでこう言ったの なつは自分の体を犠牲にするほど必死で頑張っていましたけれど、もう これ以上は私が耐えられませんでしたって… 圭司さん、涙声で自分を責めていたわ…』
そして、そんな圭司に、お母様はこう言ったのだそうだ。
『子は天からの授かりもの 不妊治療なんてしなくても、なつにもきっと子が授かりますよ 何しろ、なつと同じ病気の私が、なつを授かることができたんですから…』
どうやら、お母様も私と同じ多膿包性卵巣症候群を患っていたらしく、6年間も子供ができなかったのだという。
当時、不妊治療が今ほど進んでいなかった為、自然妊娠に望みをかけるしかなかったけれど、同居していたお爺様達から跡継ぎのプレッシャーをかけられたことで、次第にお母様は体調を崩してしまった。
それを見かねたお父様は、お母様を連れて家を出たのだそうだ。
『もう 子供のことなんて気にするな… 跡継ぎなんてどうだっていい… 節子さえ、いてくれたらそれでいい…』
お父様の言葉に元気を取り戻していったお母様は、半年後私を身籠もった。
お母様の不妊を引き起こしていた本当の要因は、プレッシャーによる精神的なストレスだったのだ。
それを聞いた圭司は、なつにも必ず赤ちゃんを抱かせてみせるとお母様に誓い、早速その日から行動に移したのだそうだ。
まずは、あのパワハラ室長に掛け合って、長期の療養休暇を貰おうと私の職場に向かったらしい。
でも、室長は、こんな忙しい時期に休まれたら迷惑だと言って、三日しか休みを認めなかったそうだ。
圭司はそんな室長に対して不信感を抱き、職場の同僚から私がパワハラを受けていた事実を突きとめ、人事部に乗り込んだのだという。
穏便に済まそうとしたホテル側は、室長を地方に左遷させることと、私に一ヶ月の有給を与えることを約束した。
こうして圭司は、私をしばらく病院に入院させ、傷ついた心と体を少しずつ回復させていった。
子供のことばかり考えていた私の脳は、ようやく解放されて徐々に他のことも楽しめるようになっていった。
そして、次に圭司が考えたのは、ハワイにいた私の両親を日本へ帰国させることだったようだ。
圭司の説得でお父様は考えを変えてくれて、長野に戻ることを約束してくれた。
私に里帰りできる実家を作ってあげたいと、圭司はお母様に言っていたそうだ。
『なつにも親孝行させてあげて下さい。』
そう考えると、圭司の言う親孝行とは、私の両親をおじいちゃんとおばあちゃんにさせるという意味だったのかもしれない。