婚約者はホスト!?④~守りたいもの~(番外編あり)
「圭司 手伝ってあげたら? 皆、困ってるし…」
さすがに、ここは助けてあげないと…
圭司は私がそう言うと、「分かったよ」と観念したように呟いた。
「悪りーな 頼んだぞ 響~」
そう声をかけた夏樹さんの顔を、圭司はひと睨みして、スタッフルームへと歩いて行った。
暫くして、店内の女性客達がざわめき始めた。
『ねえねえ あのウエイターさん、ちょっと格好良くない?』
『ホントだ~』
『私、声かけちゃおうかな~』
そんなヒソヒソ声が、あちこちから聞こえてくる。
そう…
女性客達のハートを一気に鷲摑みにしたのは、ウエイター姿に身を扮した圭司だった。
「さすが、元ナンバーワンホストだな…」
夏樹さんさんは目を細めながら、ポツリと呟いた。
そうだ…
うっかりしてしまったけれど、圭司がこんな格好をしていたら女の子が騒がないはずかない。
圭司が私以外の女性に笑顔を向ける度に、胸の奥がズキンと痛んだ。
『今回は、仕事の話なんだから…』
『変なヤキモチとか無しにして…』
あんなこと、言わなきゃよかったな…。
最近、幸せボケをしていたせいで、すっかりこんな感情なんて忘れていたけれど…
私は今、凄くヤキモチを妬いている…
「なつさん?」
ハッと我に返ると、夏樹さんが手に資料を持ったまま、私の顔をのぞき込んでいた。
「あっ ごめんなさい えっと、テーブルの配置のことだったよね…」
いけない、いけない…
今日は、夏樹さんの仕事の相談に来たんだから…。
私は気を取り直して、夏樹さんの資料に目を通した。
「なつさん 大体分かったから、やっぱり、今日は、もういいや… 俺、響と交代してくるよ…」
「えっ? あっ 別に、私のことなら気にしなくても…」
「いや このままだとマズそうなんだ… スイートハニーワッフルを客がオーダーしちゃったみたいだから…」
「スイートハニーワッフル?」
キョトンと首を傾げた私に、夏樹さんがデザートメニューを見せてきた。
「そう このワッフルのことなんだけどさ…」
「うん このワッフルがどうかしたの?」
写真で見る限り、ハチミツとアイスの乗った一見普通のワッフルのようだけど…
って… えっ?
二万円!!
まさか、そんなはず…
もう一度、ゆっくりゼロの数を数えてみたけれど…
「うそ! このワッフル、二万円もするの!?」
あまりの法外な値段に、私は思わず声を上げた。
「ああ 特典つきなんだよ… 実はそのワッフルをオーダーした客に、中庭のテラスでお気に入りのウエイターと写真撮影をしてあげてるんだけど… 今、ひとり、中庭のテーブル席に女性客が移っただろ? あの客、どうやら響を指名したっぽいから…」
夏樹さんは申し訳なさそうに呟いた。
「そっか… いいよ 夏樹さん ただ一緒に写真撮るだけなら、私、我慢するよ…」
本当は嫌だけど、仕方がない…
写真くらいなら、目をつぶろう…
そう思って答えたのだけれど…
「いや なつさん 客もさ、二万円も払う訳だから、ただ並んでツーショットってだけじゃ満足しないんだよ… 上脱がせて抱きしめさせたり、口にキスさせたり、結構凄いこと要求してくんだよね。うちの奴らなら、元ホストだし、何でもできちゃうんだけど… 響じゃ、さすがになつさんに悪いからさ…」
「そんな…」
夏樹さんさんの言葉に、一瞬目まいがした。
これじゃ、ホストクラブじゃない!
ふと、窓の外を見ると、ワッフルが置かれたテーブルで女性客が圭司の首に手を回していた。
「ちょっとヤダ! 止めなくちゃ!」
「あっ なつさん、俺も行くよ!」
私達は席を立って、圭司達のテーブルへと向かった。