婚約者はホスト!?④~守りたいもの~(番外編あり)
「ちょっと待って! やめて下さい! この人、私の大事な旦那さんなんです! お願いですから、触らないで下さい!」
私は夢中で叫びながら、女性客から圭司を引き離した。
「なつ…」
圭司は驚いた表情で私の名を呼んだ。
「圭司 ごめんね 私、無理… 圭司が他の人に笑いかけるだけでも嫌なのに、こんなこと… だから、」
「なつの方は、もう終わったの?」
「えっ あっ うん 今日はもういいって夏樹さんが…」
「そっか」
圭司はフッと笑うと、隣にいた女性客に向かって頭を下げた。
「申し訳ございません… 身重の妻を泣かせる訳にいかないので、担当をそこにいるオーナーの夏樹に変えさせて頂いても宜しいでしょうか?」
それを聞いた夏樹さんも、女性客の手を取ってひざまづいた。
「夏樹と申します。どうか、私でお許し頂けますか?」
色気のある声で、夏樹さんは元ナンバーワンの貫禄を見せた。
「あら~ こっちもいい男じゃな~い いいわよ~ 許して、あ・げ・る…」
その女性客は低い声でそう言うと、いきなり夏樹さんの唇にブチュ~と大胆にキスをした。
「圭司… もしかして、あの人…」
「ああ おネエだよ…」
圭司は二人のキスシーンに、笑いを堪えながらそう答えた。
すぐに、夏樹さん達の写真撮影が開始され、私と圭司はお店の控室へと戻ってきた。
「でも、ビックリした… あの人、男の人だったんだね… 夏樹さん、大丈夫だったかな? キスしながら相当狼狽えてたけど…」
「いいんじゃん あいつ、自分の店なんだし、どうせこのくだらない企画考えたのもあいつだろ? 自己責任だよ… まあ、俺は初めから、こんなバカらしいことに付き合う気なんて、なかったけど… なつがヤキモチ妬いて俺のこと見てたから、つい 意地悪しちゃった…」
圭司はそう言って舌を出した。
「えっ? わざとだったの?」
「あいつがオカマだったのは、想定外だったけど… なつが止めに来るの分かってたから…」
「も~う ひど~い あっ もしかして、朝の仕返しでしょ! 私があんなこと言ったから…」
「さー どうでしょう?」
圭司は悪戯な笑みを浮かべながら、私にキスをした。
と、その瞬間、控室のドアがガチャと開いた。
「おい 響! てめー ひとにあんなオカマ押しつけといて、何、自分はなつさんとイチャついてんだよ!」
声の主はもちろん、夏樹さん…。
夏樹さんは精気を吸い取られたような顔をして、圭司を睨みながら立っていた。
「ああ 夏樹 お疲れ~ 口に口紅ついてるぞ。」
可笑しそうに圭司が言うと、夏樹さんははーとため息をついて控室のテーブルにうつぶした。
「夏樹さん、大丈夫?」
私が顔をのぞき込むと、夏樹さんはもう一度ため息をついて、口を開いた。
「俺、大抵の女なら、いくら相手がブスだろうとイケるけど、男はマジ勘弁… もう、二度とご免だよ…」
「何言ってんだよ。オカマだって金払えば客だろ… 自分が決めたことなんだから、もっと腹くくれよ。そんなんじゃ、下の奴らがついてこないぞ…」
圭司の言葉に、夏樹さんは首を横に振った。
「いや もう このサービスは終わりにするよ… だいだいこの店はホストクラブじゃねーんだし、こんなことしてたら、レストランウエディングの客にも印象悪いからな… よし、決めた…メニューも撤収してくるわ…」
夏樹さんは椅子から立ち上がると、フラフラした足取りで控室を出て行った。
「あいつ よっぽど、こたえたんだな…」
夏樹さんの去った後、圭司がポソッと呟いた。