婚約者はホスト!?④~守りたいもの~(番外編あり)
「あ 母さんの味か… 言われてみれば似てる気もする…かな…」
そう言って圭司は、もうひと口食べながら考え込むように目を閉じた。
「ううん 一年くらい頑張ったんだけど、私には、結局 おば様のシチューは再現できなかったの…。もともと 私 不器用で、シチューの味を美味しくさせるのでさえ大変だったから…
でもね ある時圭司が言ってくれたの…『俺は
なつの作ったこのシチューが、世界で一番旨いよ』って。なつが俺と母さんを想って作ってくれた優しい味がするっ…て言ってくれたんだよね…。」
気づくと私の目から涙がこぼれ落ちていた。
泣き落としみたいで嫌だったけど、溢れていく涙をどうしても止められなかった。
「なつ…。」
圭司は私の名を呼んで、俯く私の手をぎゅっと握った。
私は顔を上げて圭司のことを見つめた。
「俺 ちゃんと記憶を取り戻すから…。なつとの5年間をちゃん思い出すよ。だから もう 泣かないで…。」
圭司の言葉と手の温もりが、氷のように冷えていた私の心を溶かしていった。
嬉しかった…。
圭司が芹香さんへの想いより、私との未来を選んでくれたと思ったから…。
これで いいんだよね…。
芹香さんへの想いは、このまま 封印してくれるんだよね…。
私はそんなことを考えながら、力強く頷いた。