婚約者はホスト!?④~守りたいもの~(番外編あり)
夢から覚めた俺は、キッチンから聞こえてくる微かな泣き声に気がついた。
何事かと思い寝室を出ると、キッチンでうずくまっているなつを見つけた。
『どうしたの?』
俺は驚いて、なつの方へと歩み寄った。
『あっ 手を切っちゃったのか…』
なつは血の出ている左手の人差し指を押さえながら、目に涙をためて泣いていた。
微かに震えるその泣き顔に、俺はたまらなく胸が締め付けられた。
なんだかなつを見ていると、庇護欲が掻き立てられる。
痛くて泣いていたのか、それとも 他に理由があったのか…よく分からなかったけれど、とにかく、俺はなつの涙をすぐに止めてあげたかった。
俺は右手と口を使って、なつの指に包帯をグルグルと巻いた。
流石に大袈裟かとは思ったけど…。
『ありがとう…。』
そう言って、なつはにこりと笑った。
その笑顔に、ひとまずホッとした。
俺はなつから包丁を取り上げて、サラダを切った。なつはびっくりしていたけど、また手を滑らせたらと思ったら、体が勝手に動いていた。
夕食になつはシチューを作ってくれた。
なつはすっかり元気になって、ニコニコしながら、俺が食べる様子をじっと見つめていた。
シチューをひとくち食べると、胸がじわじわと熱くなった。俺はこの味を知っている…
そう このシチューは…
『懐かしいというか 優しい味がする…。』
俺がそう言うと、なつは大きく目を見開いた。
どうやらなつは、俺の母さんのシチューの味を俺に食べさせたくて、ずっと練習していたそうだ。死んだ母さんのシチューは俺の大好物だったから…。
でも なかなか上手く出来なかったなつに俺が言ったのだという。
『俺は、なつの作ったこのシチューが世界で一番旨いよ。なつが俺と母さんのことを想ってくれた優しい味がする…』…と。