婚約者はホスト!?④~守りたいもの~(番外編あり)
私はタクシーで病院へと向かった。
病院の人の話では、圭司は幸い命に別状はないようだけれど、頭を強く打っていて、まだ 意識が戻らないらしい…。
不安な気持ちを抱えながら、病室へと駆けつけた。
ドアを開けると、ベッドの上には酸素マスクをつけた圭司が眠っていた。
「圭司…。」
私は圭司の手を握りながら、何度も耳元で名前を呼びかけた…。
こうしていると、圭司が背中を撃たれた五年前のことを思い出す。
あの時も圭司は意識を失ってしまった。
何度も泣きながら、私は圭司の名前を呼び続け
ていたんだよね…
でも、あの時の圭司は、そんな私の声に応えるように、ちゃんと目を覚ましてくれた。
だから 今回も大丈夫だよね…
『心配かけてごめん』と言って、すぐに私のことを抱きしめてくれるよね…
私は祈るような気持ちで、圭司の顔を見つめていた。
「失礼します…。あの 警察の方がお見えですが…。」
ドアの方を見ると、看護士さんの後ろで二人の男性が頭を下げた。
私は廊下に出て、刑事さんの話を聞いた。
「えっとですね 目撃者の話では、ご主人は小さな子供を庇って交差点に信号無視で突っ込んできたバイクに跳ねられたようなんです…。」
「そう ですか…。」
「そのバイクは逃走中でして、今 警察の方でも追っているところなんですけど…。また ご主人の意識が戻りましたら、話を聞きにきますので…。」
「わかりました…。」
「あっ それから これ…。」
そう言って、刑事さんは真っ赤な薔薇の花束を私の目の前に差し出した。
「道に落ちていたそうです…。おそらく ご主人が買ったものかと…。」
あっ…。
これは、きっと今日の為に…。
私の目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
もう 何やってるの圭司…。
ちゃんと圭司から、この花束を渡してくれなきゃダメじゃない…!
早く目を覚ましてよ…。
私達の5年目の結婚記念日は、くしくも病院で迎えることとなってしまった。