婚約者はホスト!?④~守りたいもの~(番外編あり)
なつは俯きながら、涙をポロポロとこぼした。
『なつ…。』
俺はこの時、彼女の名を初めて呼んだ。
なつはその響きに、少し戸惑いながら顔を上げた。
『俺 ちゃんと記憶を取り戻すから。なつとの5年間をちゃんと思い出すよ。だから もう泣かないで…。』
俺はなつの手を握りながらそう言った。
もう 彼女を泣かせたくない…。
こんなにも一生懸命に俺のことを愛してくれてるなつの為に、早く記憶を取り戻したい…。
そう 強く思ったのだ…。
俺は、再び、背中を向けてスヤスヤと眠るなつに目を向けた。
今日はたくさん泣いたからか、ベッドに入った途端、寝息を立ててすぐに寝てしまった。
そんなに端っこで寝ていたら落ちちゃうだろ…
俺はなつを起こさないようにそっと右手を差し込んで、なつの体をころんとこちらに向けた。
「…ん けい じ…。」
なつは俺の名前を呟きながら、俺の胸へと入ってきた。
そして なつは寝ぼけながら、自分の顔を俺の胸に擦るように、ぐいぐい押しつけてきた…。
ふわっとなつの甘い香りが漂った。
俺は骨折している左腕を庇いながら、なつの体をそっと抱き寄せた。
その瞬間、なつが小さな声で言った。
「捨てないで…」
ハッとしてなつの顔を見ると、目もとにうっすらと涙が滲んでいた。
俺は、なつの体をギュッと抱きしめた。
捨てる訳ないだろ…。
俺は、寝ているなつにそう言い返して、なつの涙を指でそっと拭った。