婚約者はホスト!?④~守りたいもの~(番外編あり)
すでに夏樹さんを乗せたエレベーターは、行ってしまった後で、私は次に来たエレベーターに慌てて飛び乗った。
「夏樹さ~ん!」
来客用の駐車場で、やっと夏樹さんの姿を見つけた。
「あれ どうしたの? なつさん…。」
振り向いた夏樹さんは、はあはあと息を切らしている私の所へと戻ってきてくれた。
「あのね 夏樹さん…これ 返すから」
私は一万円札を夏樹さんの前に差し出した。
「いやいや いいって 鍋ご馳走になったんだから当然でしょ? もらっておいてよ…。」
夏樹さんの手が私の手を引っ込める。
「だめだめ そんなにかかってないもの ケーキだって買ってきてもらったのに…。あそこのケーキだって凄く高いじゃない!」
「いいじゃん ここは格好つけさせてよ…」
「いや 夏樹さんは十分格好いいから…」
夜の駐車場で私と夏樹さんは、手を握ったまま一万円札を返し合った。
そのうち、ククッと夏樹さんが笑い出した。
「もう なつさんは… 俺 初めてだよ 女の子とお札を返し合うのなんて じゃあさ 俺のぽっぺたにキスしてくれたら、この一万円札受け取ってあげる… どう?」
「ええっ!」
夏樹さんはかがんだ姿勢で、私の口元に自分の頬を近づけてきた。
「ちょっと 待って いくら ぽっぺでもキスは無理だから…」
「じゃあ 一万円は受け取らないよ? いいの? 軽くチュッでいいんだけどな…」
「えっと あの…」
お酒を飲んだ訳じゃないのに、どうしちゃったんだろう 夏樹さん…
わざと私ができないことを言って、お金を受け取らないつもりなのかな…。
でも キスなんてできないし…。
「ほら なつさん 早く」
ぐっと夏樹さんの顔が近づいた。
「いや 夏樹さん…それは…」
「なつ キスなんてしなくていいから、こっちおいで!」
突然、聞こえてきた声に振り向くと、圭司が夏樹さんを睨みながら立っていた。