婚約者はホスト!?④~守りたいもの~(番外編あり)
「あっ 見つかっちゃたか~ ざ~んねん 響に殴られないうちに帰んないと それじあゃねなつさん」
夏樹さんは笑いながらそう言って、車へと歩き出した。
「あっ 夏樹さん これ…。」
お札を持って追いかけようとした私の腕を、圭司ががしっと掴んだ。
その瞬間 右手で持っていた松葉杖がバタンと地面に落ちた。
「いいよ なつ お金ならあいつの上着のポケットにちゃんと返してあるから…。」
「えっ! そうだったの?」
夏樹さんも足を止めて、自分のコートの中に手を入れた。
「あっ ホントだ いつの間に… さすが 響だな…。」
そう言って、夏樹さんはニヤリと笑って振り向いた。
「おまえも悪趣味だよな 俺に妬かせて面白がって…。」
「いや~ これがないと物足りなくてさ」
「やっぱ 1メール以内禁止な おまえ…。」
「はーい 了解!」
夏樹さんは手を挙げると、愛車に乗り込み帰っていった。
私はハッとして片足で立つ圭司に、松葉杖を差し出した。
「圭司 これ…」
「うん… ありがとう」
圭司は私から受け取ると、ふーとため息をつきながら歩き出した。
「あの ごめんね…。わざわざ 言いに来させちって…」
「そんなのはいいんだけど… もう ああいうのにつき合わなくていいからね。ホント 無防備で困る…」
「えっ あ うん。ごめんね…」
さっきの夏樹さんは、圭司が来るのを分かってて、わざとあんなことをした感じだったけど…
圭司もそんな夏樹さんに気づいてて、妬いてるフリでもしてくれてるのだろうか…
でも 今の圭司は、そんなことより、芹香さんのことで頭が一杯のはずだ…。
名刺の裏の文字が、芹香さんのものだったのだから…
私は 今、芹香さんの存在が恐い…。