bride
明仁から告白されたのは、もう少し後。
見た目が落ち着いた明仁のまわりには、以前よりもたくさんの人が集まるようになった。女の子たちなんて、猫なで声で色目つかって、明仁にべったり。私の方が先に明仁を好きになったのに、なんて、心の中で小さく訴えてみたりもした。自分から告白する勇気が、私にあればいいのに。そんな私の気持ちを知ってか知らずか、クラスのみんなが居る前で、明仁は私に言った。
「松岡」
「え、は、はい」
「松岡のことが好きです、俺と付き合ってください。」
「えっ・・・!あ、えと、よ、よろしくお願いします・・・」
普段はクールな明仁が突然声を張るもんだから、それだけでクラス中がびっくりしちゃって。この後、教室は大騒ぎになった。私は変に丁寧だった明仁の告白が面白くて、その理由を尋ねた。そうしたら、だって、こういうのはちゃんとしないとだろ、と恥ずかしそうに答える。その姿を見て、やっぱり素敵な人、そう思った。
それから私たちは同じ高校に進み、同じ大学を卒業した。さすがに仕事は別々だったけど、明仁は時々おばあちゃんに会いに来てくれた。明仁のご両親もすごく素敵な方で、本当の親だと思っていい、いつでも遊びにおいで、と言ってくれた。本当のお父さんとお母さんがいないのは寂しい。でも、それを補おうと、私に歩み寄ってくれる人がいる。それは、とても幸せなこと。
「おはよう、都。」
「おはよう、明仁。私、寝坊?」
「いや、大丈夫。もうちょい寝ててもいいけど」
「ううん、起きる。ありがと。」
「・・何の夢見てた?」
「え?」
「幸せそうな顔しとった、おまえ。」
「本当?懐かしい夢見た。」
「懐かしい夢?」
「明仁と出会ってからこれまで、の夢。」
「・・恥ずかしいこと思い出させんなって・・・」
「あ、告白のこと?」
「うるせー、調子のんな」
くすくすと笑う私の頭を、明仁が撫でる。口調とは裏腹に、その手は優しく、あたたかい。
「そういえばさ、」
「ん、」
「明仁は私の気持ちが読めるん?」
「は?」
「だっていつも、してほしいなって時に、してほしいこと分かってくれるから。」
「そうか?都が分かりやす過ぎるだけじゃねーの」
「あ、ばかにしとる」
「ん、」
「否定してよ」
なんだか、上手く言えないけど、運命ってこういうことなのかなって思う。ひとつひとつの出来事が重なって、今ここに明仁と私が居る。あくまでも結果論だけど、それが例えようのない幸せを私に感じさせてくれる。
「ほら、起きるぞ。ばあちゃんに晴れ姿見せてやらんとな。」
「うん。おばあちゃん、お着物で行くって張り切っとった。」
「ん、主役取られちまうかもな」
「う、それだけは・・・」
「大丈夫やって。都が世界でいちばん可愛い。」
「・・え、」
「冗談だろ、気付けよ。」
「・・・」
「・・いや、照れんなって、なんかこっちもつられるわ」
「・・ご、ごめん、だって、普段そういうこと言わんから、明仁」
「あーもう、くそ」
後でまた言ってやるから、と言って一足先にベッドをおりた明仁の耳が赤くなっているのを見て、私も顔に熱が集まるのを感じた。