溺愛レンズ
「遅せェから、帰ろうかと思った」
そう言った彼はベンチから立ち上がると、階段前にいる私の前でまさかの立ち止まった。
え、何…本当に何…
私はそんな彼に対して口を開く事何かもちろん出来なくて…
それよりも間近でみたこの人のオーラに圧倒されるばかりで…
「これ、お前のだろ」
そう言って彼の右手に握られているモノが私の前へとかざされる。
だけどもちろん声が出る事はない。
「おい、聞いてるか?」
覗き込まれるようにして彼は少しばかり私に体制を合わせてかがみ込んでくる。
アーモンド色の瞳が私を捉えて、そして小さく歪ませた眉が彼の顔には違和感で
「そう…です…」
私の口から出てきたのはそんなカスれた情けない言葉一つ。